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 『懇談当日」 〜今までに対応してきた生徒より〜 





保護者懇談、当日の朝。
ボクはとても緊張をしていた。

「どう言えば、キチンと意図していることが伝わるだろうか。」
そればかり考えていた。


「小手先のことを考えずに、正直に話したら良い。」
なんていう人もいる。

でも、「言い方」は大切だと思う。


思いの丈を、一方的に述べるだけではいけない。

大切なのは、
「相手が受け取りやすくすること。」
その一点に尽きる。


思いの儘に自分の思いだけを述べるのは、喉も渇いていない人に煮え湯を飲ませるのと同じだと思う。

それで、本人は、
「相手の喉の渇きを潤せた」
なんて思っていては、自己満足以外の何ものでもない。


相手の気持ち、状況を想像力の及ぶ限り考えておくこと。
それは、それで大切だと思う。

それを抜け切った時にはじめて、
「思いの儘に話してみる」
という、ある意味での「無我の境地」が待っているのだと思うからだ。





さて、そのお母さんとの保護者面談。

時間通り、午後4時に来校された。


しかし、ここで予想外のことが!





今思えば、見えない力の粋な計らいなのだと思う。


なんと、今日は学校が個人懇談中ということで、
午前中に学校が終わったCさん本人もお母さんとやって来たのだ。

そして、急遽三者面談になった。



全く、調子が乱れてしまった・・・。


思わず、口の中で、
「そう来るかっ!」
と呟いてしまった。(笑)



ボクの中の青写真では、お母さんとの話しの中で、

「Cさんの寂しさをもう少し理解していただけませんか。

あの子は、身体は大きいですが(笑)、
心はまだ小さな子どもです。
お母さんの愛情が欲しいって、昨日も泣いていたんです。」
という話しをしようと思っていた。


しかし・・・!
Cさん本人の前で、そんな話しをしても良いのだろうか・・・。


でも、これも「必然」なのだろうと腹を括った。






面談前に、Cさんに、

「どうする?

お母さんの横で一緒に話しをする?」
と聞くと、

「ん? いや、いい。自習しよる」
との返事。


でも、Cさんの選んだ席は、懇談をしている所からは、遠からず近からず。
話が充分に聞こえる場所に座っていた。(笑)


最初は、塾での様子。
最近のテストの結果から、塾として、今後どのような方針で進めていくか。
そして、志望校の話、
などをしていたが、
ふと見たCさんは、手はかろうじて動かしているが、一言ももらさないようにと、それこそ「全身を耳にして」こちらの様子を伺っているのが、よく分かる。(笑)



その様子に、ボクは不覚にも笑ってしまった。

「ふふふ。(笑)
あの、ごめんなさい。さっきから、そこで自習しているCさんが、ものすごく聞き耳立ててるのが、ちらっと見えたら、おかしくて・・・。(笑)


今日、Cさんがここに来てくれたことは、まさに必然なのでしょうね。



ねぇ、ちょっとCさん!

こっちおいで。一緒に話しをしよう。」


と、席を促した。

嫌がるかと思ったけど、意外に素直に、そして照れくさそうに、お母さんの隣に座るCさん。
もう、お母さんよりも立派な体格だ。



「あの、僭越ながら、今日、この場をお二人の仲直りの場にして頂きたいんです・・・。


私は塾の先生です。
だから、生徒の成績を上げるためなら、何でもしたいと思います。




今、Cさんの成績を上げるために、誰がどれだけ良い授業をしてもダメです。


なぜなら、Cさんの心の中は、ある感情でいっぱいなんです。
だから、それ以上、もうCさんの頭の中にはモノが入らない状態なんです。

お母さん、ご存知ですか。」



「いえ・・・。そういう話はあんまりしませんので・・・。」



「そうですか。

あの、別にお母さんを責めているわけではないんですよ。
きつい物言いになっていたら、すみません。
ただ、知っておいて頂きたかっただけなんです。


あの、Cさんは、『お母さんともう少しゆっくりと話しをしたい』って思っているんです。



『寂しさ』を感じているんです。


そうよな? 


ごめんな、センセ、言っちゃって・・・。」


そうCさんに言うと、
「うぅ、うっ・・・。」
と俯いて涙を流しながら、首を縦に振っていた。



「あの、実は、先月の半ばからは、80分の授業の半分くらいがカウンセリングみたいになっていたんです。

と言いますのが、あまりにも、
『ほら、さっき教えたやつを使うんよ』
ということを何度も、ひどいときは、5分の内に3回くらい言わないといけなかったので、これは、頭の整理が出来ていない、もうすでに頭の中は、飽和状態なんだろうと思ったんです。


それで、少し話しをしてみたら、そういうことになっていて・・・って、分かったんですね。

で、気持ちをとりあえず、整理させていったり、感情を吐き出させていったりという時間に半分くらい使わせてもらっていたんです。


でも、私もすごいなと思ったのが、その月の最後に中間テストがありましたけど、キチンと頭の整理をさせてから、勉強させたら、キチンと結果を出してくれたんです。(笑)


ええ、本人も言ってましたが、中1以来、久しぶりに5教科で400点を超えましたよね。(笑)
431点でしたかね?

いつもは、300点くらいだったですかね?


だから、そうやって、頭の中の『作業場』と言いますか、そういう情報を操作する場所を、キチンと確保してやれば、この子はちゃんと出来る子なんです。


だた、感情をまだ上手にコントロールできないので、1つのことが気にかかると、そればっかりになってしまうんですけど・・・。」





Cさんは、お母さんの隣で涙を拭きながら、しきりに頷いている。
しばらくの沈黙の後、Cさんのお母さんが口を開いた。


「・・・そうですか。はい・・・・。
何となくは、私も気付いていました。
この子が感情のコントロールが下手なことも・・・。


私も言いすぎるんですかね・・・。
でも、つい、『勉強しなさい』って言っちゃうんですよね・・・。(笑)
私はどうしたら良いんですかね・・・?」(笑)


「Cさん。お母さんにどうして欲しいの?」


「・・・。別に・・・。」


「今のままで良いの?」


「それは・・・。」


「じゃあ、どうして欲しいの?」


「・・・。

・・・だって、言ってもしょうがないもん・・・。」



この言葉に、お母さんは少し絶句されておられた。



「あのなぁ、Cさん! 
なんで、言ってもしょうがないって思うん?
まだ、何にも言ってないじゃん。

ちょっと、センセの目を見て、よぉ〜く、聞き!


そう。

あんな、ここにいらっしゃるのは、Cさんのお母さんよ。
Cさんを間違いなく、産んで、ここまで育てて下さったお母さんよ。

分かる?

で、今も、Cさんの受験もあるからって、Cさんに気を配ってくれているんよ。
そんなお母さんを信用できないの?」



「・・・。そういうわけじゃ、ないけど・・・。」



「だったら、言ってごらんよ。な。

昨日、センセに泣きながら、
『お母さんともっとゆっくり話しをしたい』
って、言ってたでしょ。


お母さんが最近、お祖母ちゃんの介護ばかりで、用事も、お祖母ちゃんのことばかりで、買ってくるものも、お祖母ちゃんのものばかりで、『私』なんか、おってもおらんでも、同じなんかな、って涙を流してたんじゃろ?


親子なんだから、甘えても良いんよ。
そこは、気を遣わなくても良い。
な。


だって、Cさんは、そこがまず解消されないと、受験のときも、踏ん張れないよ。

いつまで経っても、受験が終わっても、生きている限りずっと、
『私はお母さんに愛されなった』
って思いを抱いたまま、生きていくのは嫌なんじゃろ?


だったら、今、少し勇気を振り絞って、お母さんに話しをして。
な。」



しゃくり上げながら、Cさんは、

「・・・。
わたしはな、お母さんともっと、話しをしたいんじゃ!」

と、涙と共に、空に叫ぶようにそう言い放った。



そのときの、お母さんの何とも悲しみと慈しみに満ちた眼を、ボクは決して忘れないだろう。




「お母さんは、看護士として本当に一生懸命働かれておられますし、
空いた時間も、お祖母ちゃんの介護をされている、という話しも伺いました。

本当に頭が下がります。



でも、ほんの5分で良いんです。寝る前の5分で良いですから、ちょっとCさんと話しをしてもらえませんか。

ええ、お母さんは弁が立ちますが、Cさんはどちらかと言えば、口下手な方ですよね。(笑)


だから、お母さんは少しイライラされるかもしれませんが、話、聞いてやってもらえますか。
私の方からもお願い致します。」



そう言って頭を下げると、



「そうですか・・・。分かりました。怒らずに話しを聞きます。


Cちゃん、ゴメンネ。お母さんも、できるだけちゃんと話をするから。
ううん、話を聞くって言った方が良いのかな?(笑)


ホント、センセ、ごめんなさい。
こんな、カウンセラーみたいなことまでして頂いて・・・。
私もまだ勉強しないとダメですね・・・。


この子にとっては、本当にこの塾に出会えて良かったです。


本当に感謝しています。
ありがとうございます。」



と笑顔で仰って頂いた。



Cさんは話をしている間、涙をずっと拭っていた。

しかし、最初は口元が「へ」の字だったのが、終わる頃は、口元に微笑みも浮かんできていた。



でも、この親子も、またここからスタートなんだろうと思う。
まだ、問題は本当の意味では解決していないのだから。





「親子の縁は切れない」

それは、色々な意味があるからだろう。

Cさん、そしてお母さんに温かい光が降り注ぎますように。

後姿を見ながら、そう祈らずにはいられなかった。




「弁の立つお母さん」、そして、「口下手な子ども」。

本当に、お互いの「学び」のために、現世を利用しているんだなぁと、実感した。


だからこそ、感謝ができる。
たましい同志が、ふれあいの中で、お互いを磨いていける。
いや、ふれあいの中でしか、お互いは磨けないのだろう。


どんな超人的な修行をしても、それが「誰かのため」にならないのであれば、全く自己満足な世界だ。
だから、そういう「利己主義」は、たましいが欲しているところではないのだと思う。



「誰かのために心を込めること」
それが、大切なのだと思う。
肉体を持っている人、肉体を持っていない人に関わらず、だ。


今日の、誕生日の前に、素敵なプレゼントを頂いた。

「ありがとうございます。」


34歳。

今年も頑張ります。



(2006年)



子ども達の解いたノート


   

   

   


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